「秀吉と海賊大名」(藤田達生)

芸予諸島を根城にする海賊大名、能島村上氏因島村上氏来島村上氏の三氏の織豊時代から幕藩体制の確立期の動静を通して瀬戸内海の海賊たちの実態とその幕藩体制へ組み込まれる様を描く・・・

 

とはいえミクロにあたる三つの村上氏の流れも織豊政権期から幕藩体制期へのマクロの流れも両方を追うには中公新書一冊では難しかったか。

 

  • 足利義昭が追放されてから京都の信長と鞆の義昭の二重政権状態が続いていたこと
  • 信長の外交方針として秀吉―三好ラインと光秀―長宗我部ラインがせめぎ合っていたこと(最終的には秀吉ラインが勝利したこと)
  • 秀吉の中国攻略期、中世大名のままでの存立を目指していた毛利氏の内情はボロボロであり中国大返しの秀吉を背後から攻めるどころではなかったこと
  • 家康側近の藤堂高虎今治)と豊臣恩顧大名の加藤嘉明(松山)の伊予国内でのバチバチがあったこと

 

などは面白い。
著者には中四国規模での戦国末期から江戸初期にかけての本を書いていただければよいかと。

「涼宮ハルヒの直観」(谷川流)

感想がどうだったかというと・・・これ涼宮ハルヒシリーズ???

なにもなかったじゃない。

せめて二冊セットの一冊目とかならわかるんだけど(あるいは近日二冊目発売とか)
宇宙人未来人超能力者一切関係ないよね・・・

 

面白く愉快には読めたけどこれはもう別シリーズでするべきでは。

 

まあこれまでの経験上、涼宮ハルヒシリーズは一回目そんなでも二回目以降楽しくなるから二回三回と読んでいく必要があるだろうけども。

足立区尾久橋通り散歩道

足立区が、尾久橋通りが、エモーショナルにいい。

 

 

 

 

コロナ禍で散歩の時間が増えた。
これまで絶対に行かなかったようなところに散歩に出かけた。

足立区である。

これまで散歩というと大都会か、閑静な住宅地、それも要塞のような家がひしめく住宅地がメインだった。

それを大転換して足立区に向かったのだ。

 

 

 

足立区、いい。

 

特に尾久橋通り沿い*1、いい。

 

一気にハマってしまった。

 

なににこれほど魅かれるのかと思っていたが懐かしい感じがするのだ。

生まれ育った地方都市のちょっと郊外の住宅地感がするのだ。

 

 

おしゃべりに夢中過ぎてドブにはまったあの道を、
台所のぜんざい目当てで駆けて帰ったあの道を、
友達とバカ話して帰ったあの道を、
一人で海に向かって走ったあの道を、思い出すのだ。

 

例えば扇大橋駅前。
駅前なのにびっくりするほど何もない。車は多いのに道行く人もまばらで日常感がとてもよい。

 

例えば高野駅前。
駅前のパチンコ屋の煙草臭を含んだ独特の匂いが昔友達と遊んだゲーセンを思い出させる。

 

例えば地方都市の環状線感がある環七。

 

どこもとっても地味だけどとても味わいのある懐かしい感じがたまらない。

 

 

 

足立区というと悪いイメージが先行している。
確かに散歩していてもガラに問題がある人がやや多めかな、とは思う。

ただ、誰にもオススメはしないけど、こういう暖かみのある足立区の顔も知ってほしい。

*1:日暮里舎人ライナー沿いとも言う

【ネタバレ注意】「男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。」(時雨沢恵一)

 

 

 

―去っていった盟友に捧ぐ―

 

 

男子高校生で売れっ子ライトノベル作家―主人公・僕

年下のクラスメイトで声優の女の子―ヒロイン・似鳥絵里*1

 

 

 

最初はラノベ執筆ハウトゥものだよね。毎週同じ電車の中で主人公がインタビュアー・似鳥相手に延々とライトノベルについての質問に答え続けるだけ。ただひたすらインタビューし続ける似鳥が何者なのか気になるだけで。だから○○ガールの路線で「ラノベ執筆ガール」なのかと思ってだらだら読んでた。

でも執筆の部分がいくらなんでも少なすぎる辺りから、変だな、似鳥になんかあるなと思い出した。

 

 

まず、二巻で似鳥の秘密が明らかになる。

正直、そんなに驚く秘密じゃなかった。(それまでの似鳥の違和感を思えば)

ただ、ラブラブうふふなおまけステージだと思っていた三巻の終わり近くで、謎など無さそうだった主人公の秘密が明らかになったのは衝撃だったわ。

似鳥の秘密で謎解きは終わりやったんちゃうんかーい!てな具合でね。

  

 

 

とはいえ主人公の謎というのがいかにも取ってつけたような感じでどうもしっくりこないんだよね。

どんでん返しという筋の面白さ、謎解きの面白さを最優先にして、気味の悪いオチを提示するのは嫌い。

文学性を犠牲にして新奇性を全面に出してるというか。

例えば推理モノだと人が死なないとそもそも謎解きにならないから人を殺すのはまあ仕方ない場合もあるのかなと思うんだけど、それはあくまで必然性が美的な文学性を上回っているから仕方ないのであって、できることなら平凡な、つまり胃の中が気持ち悪くならないお話の方が文学的に好ましい。

 

 

 

三巻の終わりにある次巻以降10巻までの架空のあらすじがとても微笑ましいので正直、もっと読んでみたいという気分もある。単純に一旦読んじゃったから続きが気になるだけかもだけど。

 

小説を高速読みするのが好きな人におすすめ。逆に本はじっくり熟読するという人は絶対読まない方がいい。

*1:に「た」どりえり。お値段以上じゃないのね

江ノ電作品の時系列

ぶっちゃけ「ラヴァーズ・キス」「エルフェンリート」「青い花」「海街diary」、お前ら極楽寺好き過ぎるやろ、しかも後ろ三つは掲載期間かぶってるやんけ、じゃあ線表作ろうか、と勢いで線表を作ってみたものの、期間が長すぎてとんでもなく横長になったので線表はやめてメモにする。

これから作品の数が増えれてもいいようにタイトルは広めにした。

 

2002年 6月 エルフェンリート・開始

 

2004年11 青い花・開始

 

2005年 8月 エルフェンリート・終了(3年2月)

 

2006年 8月 海街diary・開始

カブリ期間 6年11月

2013年7月 青い花・終了(8年8月)

 

2018年 8月 海街diary・終了(12年)

 

 

青い花海街diary 

 

青い花」は明らかに吉田秋生の「櫻の園」を意識して描かれているので7年弱のこのカブリ期間、志村貴子*1はどういう気持ちだったんだろうと妄想するとちょっと面白い。

 

だって意図はともかくラヴァーズ・キス海街diaryに挟まれる形になったわけだからね、青い花。プレッシャーなかったとはちょっと思えない。

 

あと逆に吉田秋生はどうだったんだろう。

 

極楽寺の同じ店であんみつ食べて、鎌倉高校前の同じ坂が出てきて、江の島の裏側に同じように感激する・・・ここまでカブってなんにも意識してないってあるんだろうか。*2

 

あと杉本四姉妹と香田&浅野四姉妹はどっちが先だったんだろ。ちょっと調べてみよ♪

*1:吉田秋生ファン過ぎて普段「吉田秋生」表記なので合わせた

*2:エルフェンリートも期間と極楽寺舞台ではカブりまくってるんだけど作風が違いすぎるので略

【ネタバレ注意】アニメ・青い花、視聴後ほやほやの心の叫びを伝えたい!

19時半過ぎ青い花、見終わった。
真面目な感想はいずれ自分用に書くとして、いまはとにかく誰かに伝えたくて仕方がないので書く。
ラブレターは一晩寝かせろ、と言われるものの、一晩寝かせたらラブレターなんて出せねえよ!
 

・一応あらすじ

青い花は、万城目ふみ(ふみちゃん)と奥平あきら*1(あーちゃん)のダブルヒロインの百合アニメ。
どう考えてもふみちゃんとあーちゃんがくっつく話のはずなのに、全然進展しない。

 

・視聴当時の感想から尺が足りないと心配している部分を抜粋

 
1話~7話:春~初夏
1話でふみが肉体関係のあった従姉妹と破局*2、幼馴染のあきらと再会*3。ふみはイケメン女子の先輩と付き合い出す。
 

4話
全12話なのでそろそろふみちゃんとあーちゃんがどうにかならないと尺的にしんどい・・・

 

5話
ってまだ学園祭始まってすらないんだけど尺大丈夫か・・・
てか全11話かよ・・・ますますヤバいじゃん・・・

 

6話
そしてもうこりゃ尺足りないの確定。どう終わらせるのかに興味が移りつつある。

 

7話
尺が気になってしょうがない7話。

 

ここでふみが先輩と別れる*4(その後ふみは誰とも付き合わない)
 

8話
つかあと3話でなにができるっちゅうねん!尺がああああああああ!

 


9話:夏休み

9話
休憩回ですね。つか11話中9話が休憩回って尺とかもうどうでもいいだろスタッフ・・・

 

10話
尺がああああああああああああ!
次回でどうまとめるんだよ・・・せっかく面白いのに頭抱えちゃう。

 

11話:秋~冬
11話(最終話)
に至っても未だ物語がまったく進む気配なし。
気がつけばエンディングテーマが流れ出して、どう考えてもラストに「続く」がつくだろう、と諦めかけた・・・*5
 

視聴終了90秒前

 
以降、視聴終了直後の心の叫び。
原文ママ
 
 
 
まさかの!まさかの!物語終了前1分半でまさかの!この終わり方はいくらなんでも想定の範囲外!
すごい!なんかわかんないけどちょっと涙出ちゃったぞ。あ、こうきたか!おおお!みたいな!
マジでまさかの展開!いや、意外性って意味じゃなくて全然あり得る展開なんだけど、
なんだ、このうまく言えない感じ。いや、そうなんだけど、雪降ります、校舎見ます、ああ、これで終わるのか~
これじゃ全然終われないじゃん(二期絶望的だし*6
・・・ってえ?あ?複数の伏線が一気に底*7に集約されちゃうの?スゲーもう終わるのに、
いや、終わるからなんだけど、え、心の準備が、なにこれスゲーよ。対百合免疫めっちゃある自信ある*8けど、
これある意味いきなり告白とかいきなりキスとかより全然衝撃じゃん。レズセックスから始まりレズキス、家族紹介とか
どこまでもレズの道をステップアップしていってたふみちゃん、最後の最後でこれですか!
最高や!あんた最高や!純愛は最高にエロいとはいうものの、言葉ではわかってるものの!
 
 
 
 
 

ここまで書いて腹痛に襲われトイレに駆け込み文章*9終了。
アニメを見るときは部屋を明るくして室温を外気より暖かくして見てください
 

*1:女子

*2:男と結婚した

*3:再会時お互い気づかなかった

*4:先輩に好きな男がいて忘れられないからフラれた

*5:これで終わってても十分面白かったけどね

*6:ふみ役の声優?がコカイン所持で逮捕されて芸能界引退したので無理

*7:そこ

*8:かれこれ20年ほど百合男子やってる

*9:もはやラブレターだと思う

「エンドレスエイトの驚愕-ハルヒ@人間原理を考える-」(三浦俊彦)

本書はハードカバーサイズ400ページの「分析哲学」「芸術的解釈」に基づくエンドレスエイト*1についての考察を行うものである。

 

一般に考察それ自体はとても面白いので好きだ。ただ特にアニメの考察では考察内容よりむしろ自分の背景知識と読み込み力を誇るマウンティングが先行しがちなので本書のような記述はだいぶ助かる*2

 

私は本を読むのが遅いのにもかかわらず、他の本と並列して、これほど難解な内容を含む本をわずか四日足らずで読めた。

 

本書の内容が私の大好きな涼宮ハルヒシリーズに関するものであること、

内容の難易度の高さにもかかわらず適切なフォローがあること、

また文体がブログに近いこと(2ちゃんねるやブログの引用も多い)

など、さーっと読むのには適していたとも言える。

 

しかし、それだけではあるまい。

 

何と言ってもエンドレスエイトである。

サブカル史上に残る大失態!*3

その大失態は、私の大好き過ぎる涼宮ハルヒシリーズで!

しかも生まれて初めてのアニメのリアルタイム視聴で!

行われたのだ!

 

ネットに同志たちの不満は溢れている。傷のなめあいはできる。

だが、あのトラウマになんらかの意味を持たせるような、そんな可能性があるとすれば―。

 

そこで本書である。

偶然知ったとはいえとりあえず中身を確認する必要があるだろう。

もしそこに「~年代の想像力」だとか「ゲーデル的云々」だとか書いてあったら鼻で嗤って足蹴にしてやればいい。

 

本書はこれらの「社会定位」の批評*4に懐疑的だ。(P51-56

 

単純に物語として面白いかどうか、成立しうるかどうか、という点で論が進んでいく(助かる!)。

 

だいたい240ページくらいまでは芸術論、その後は様々な解釈がビュンビュン飛び出す感じ(これが分析哲学っていうのか?)

 

他のエンドレスエイト論(普通は涼宮ハルヒシリーズ論に含まれる)より後発であることを活かし、*5これまでの議論をもとにエンドレスエイトについて、芸術的観点からのダメ出し*6をした上で、様々な仮説を整理、敷衍、展開していくというのが本書の大まかな構成*7である。

 

一部議論が強引であるほか*8、議論の混乱、繰り返し、行きつ戻りつ、などが見られそのたびに「この人、本当に大学教授?」と末尾を開くことが多かった。

 

たぶん、書くのが面白くてしょうがなかったんだろうな。29冊目にして初めて自分から企画を出版社に持ち込んだくらいだし論文じゃない好き勝手書ける形式でしかも他に見られないような人間原理コンセプチュアルアートの議論を「あのエンドレスエイト」で展開できるんだから書いてて面白くないはずがない。

 

そういう意味ではこれら文章の荒れは、著者の熱量を感じながら一緒に楽しめるという長所でもある。

しかし、もう少し読みやすく出来なかったのかな、とは思う。人間原理コンセプチュアルアートの部分は難しくならざるを得ないけれど、それぞれの○○説の説明のところなんかは工夫のしようがあったのではないか。

 

とはいえ一回読んだだけじゃわからない。また長時間かけて神経すり減らして読まなきゃならんのか。

 

なあ、世界、少しくらいは待てるだろ?*9

 

 

もう一回読むまで、

 

ちょっとくらい待機しててくれてもいいよな。*10

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、本書は科学研究費助成事業の一環だそうである。

「どこをどういじっても駄作のアニメで科研費をもらう」というのは、奥村雄樹「会田誠に本気で VOCA 賞を狙った絵を描いてもらう/その絵を. VOCA 展に出す」のパロディなのではないか。

 

そう、本書自体が実はコンセプチュアルアートなのだ。

*1:アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」第二期においてほぼ同じ内容を地上波30分枠で8話丸々放映して物議をかもしたエピソード。原作は「涼宮ハルヒの暴走」所収の短編

*2:アニメオタクはマウンティング大好き。試しにエヴァンゲリオンまどかマギカをちょっとだけdisってみよう。

*3:この後、涼宮ハルヒシリーズは凋落し、ハルヒと言えば「エンドレスエイトwww」となり、京都アニメーションと言えば「けいおん」となる。セカイ系が終わり、日常系全盛期への突入のある意味象徴的な出来事とも言える。「夏休みの高校生のただの日常」の繰り返しが退屈過ぎたがために・・・

*4:ざっくりいうと「この10年で話題になったサブカルチャーを分析してみたら、社会やコミュニケーション空間の変化が見えてきた」というような

*5:なんせエンドレスエイトの放映は2009年。そもそもなぜ今更エンドレスエイト?というのが実は本書の一番の謎

*6:実は意外に非常に貴重だと思う。つまらない、ということについて何がどうしてどうつまらないのかをきちんと言葉にすることは大事。ブログやついったーの字数では足りないので本書は有難い。

*7:ところどころに出現する小出しの「人間原理が邪魔。どこかの一章を使ってちゃんと説明してほしい。そもそも人間原理自体をこんな無批判に使っていいのか疑問。人間原理って割とよく聞くけど説明する人によって全然言ってることが違うような気がする

*8:大なり小なり強引な展開が見られるが特に「エンドレスエイトコンセプチュアルアートである」ことの論証は強引かつ執拗。面白いけど。

*9:劇場版「涼宮ハルヒの消失」より

*10:劇場版「涼宮ハルヒの消失」より